書籍のように詳しくはないけど、ちょうど欲しい情報がここにある

沖縄の特殊事情①〜財産区の登記について

注意!あくまでも個人的見解です。

沖縄には地方自治法上の財産区はないと聞きましたが、登記簿を取得してみると、財産区が表題部所有者や登記名義人となっている場合があります。
なぜでしょうか?

沖縄に財産区は存在しないのに、登記簿上に◯◯財産区とあるのは、下記の照会及び回答が原因だと思われます。

あくまでも個人的見解ですので、参考程度に読まれてください。

下記回答は、財産区名義に移転登記を嘱託できるとしていますが、
1については「私人名義に登記された当時から右の旧市町村制施行の際まで当該不動産を宜野湾村の一部が所有していたものであれば」、
2については「私人名義に登記された当時から右の旧市町村制施行の際まで当該不動産を宜野湾村の一部が所有していたもので、かつ、その所有者である宜野湾村の一部旧市町村制第146条第1項の規定によって財産区となり
と要件を付しています。

字有財産であるにもかかわらず私人名義となっている土地等について、私人名義からの変更を急いだために、要件を無視して財産区名義へ移転登記をしたことが原因ではないかと推測しています。字名義に登記ができないことから、財産区名義が便宜上使用されたのでしょう(※1)。
それが現在までそのまま残ってしまい、財産区が登記名義人等なっていると思われます。

下記回答・依命通知に出てくる「1948年7月21日米軍政府令第26号」を読みたい方は、沖縄県公文書館に問合せてみてください。

字有財産の登記についての照会及び回答

宜総管第97号
昭和56年9月7日

 那覇地方法務局長
  松江国雄 殿

宜野湾市長 安次富盛信

 字有財産の登記について(照会)

 本市内に存する字有財産はほとんど「私人名義」で保存登記されているため、その名義人に精神的、経済的負担をかけているばかりでなく、権利関係等複雑な問題が惹起しており、今後の財産管理上憂慮されます。
 つきましては、字有財産の適正管理を図るため、本職の嘱託により真正なる名義人である「字」に所有権の移転登記を検討しておりますが、それが可能かどうか御教示願います。

 

登第346号
昭和56年9月17日
那覇地方法務局長 松江 國雄

 宜野湾市市長 安次富 盛信 殿

   字有財産の登記について(回答)
 本月7日付け宜総管第97号をもって照会のあった標記の件については、左記のとおり回答します。


一 私人名義に登記されたのが旧市町村制(1948年7月21日米軍政府令第26号)施行前である場合


1 私人名義に登記された当時から右の旧市町村制施行の際まで当該不動産を宜野湾村の一部が所有していたものであれば、「真正なる登記名義の回復」を登記原因として、財産区名義にその代表者から移転登記を嘱託することができる。
2 私人名義に登記された当時から右の旧市町村制施行の際まで当該不動産を宜野湾村の一部が所有していたもので、かつ、その所有者である宜野湾村の一部が旧市町村制第146条第1項の規定によって財産区となり、その者が引き継いで今日まで当該不動産を所有している場合も、前号に同じ。


二 私人名義に登記されたのが第1項にいう旧市町村制施行後である場合


1 私人名義に登記された当時、当該不動産を右の旧市町村制第146条第1項に規定されていた財産区が所有していたものであれば、前項第1号に同じ。
2 私人名義に登記された当時から今日まで当該不動産を前号の財産区が所有しているものについても、前号に同じ。

登第347号
昭和56年9月17日
那覇地方法務局登記課長

 支局長
 出張所長 御中

   字有財産の登記について(依命通知)


 標記の件について、別紙甲号のとおり宜野湾市長から局長あて照会があり、別紙乙号のとおり局長から回答されましたが、その登記及び従前字名義で登記されているものについては、左記により取り扱うのを相当と考えますので、この旨登記官に周知願います。

       記


一 登記嘱託書中、権利者欄に記載すべき財産区の名称は「◯◯財産区」とすること。

二 登記嘱託書中、嘱託者の資格は「嘱託年月日」の次に
嘱託者 〇〇財産区代表者
    〇〇市町村長 何某
の振合いにより記載されていること。

三 登記簿に記載すべき所有者の表示は、「◯◯財産区」とすること。

四 旧市町村制(1948年7月21日米軍政府指令第26号)施行前に字名義で登記されているもので、その実体が右の旧市町村制第146条第1項に規定されていた財産区の所有であったものについて所有権移転登記嘱託等を受理するに当たっては、所有権登記名義人の表示を◯◯財産区に変更登記の嘱託がなされなければならないが、その登記原因及びその日附は、「昭和23年8月15日旧市町村制(昭和23年米軍政府指令第26号)の施行による名称変更」とすること。

五 旧市町村制施行後に字名義で登記されているもので、その実体が右の旧市町村制第146条第1項に規定されていた財産区の所有であったものについて所有権移転登記嘱託等を受理するに当たっては、所有権登記名義人の表示を◯◯財産区に更正登記の嘱託がされなければならないが、その登記原因は錯誤とすること。

変則型登記、権利能力なき社団・認可地縁団体等に関する登記手続と法律実務ー所有者不明土地、表題部所有者不明土地、相続人探索、字持地、多数共有地、財産区、特殊な名義ー(著者:正影秀明/著)

”上記書籍P51より引用”

<<図1 所有者が特殊な場合の登記>>

所有者によっては、様々な登記形式で登記されている場合もあるが、表に掲載してあるのは、あくまでも基本的なパターンである。

所有者登記簿記載事項登記簿記載例特徴説明編節
権利能力なき社団①代表者個人の住所・氏名(単独所有)
②構成員全員の住所・氏名(多数共有)
①住所
     氏名
②住所
持分   氏名
純粋な個人の単独所有や純粋な個人の共有の形式と区別がつきにくい・概要(2編2節)
・詳細(3編)
町内会・自治会等の地縁団体①代表者個人の住所・氏名(単独所有)
②構成員全員の住所・氏名(多数共有)
①住所
     氏名
②住所
持分   氏名
権利能力なき社団に属するため、登記形式は同じ。・概要(2編2節)
・詳細(3編)
法人化した認可地縁団体「認可地縁団体」〇〇町法人化すると、地縁団体名で登記できる。・概要(2編2節)
・詳細(4編)
戦時中の法人化した町内会・部落会「町内会・部落会名」大字〇〇現在では、基本的に市町村に属する。・概要(2編3節)
・詳細(8編)
財産区(新財産区)「財産区名」〇〇財産区地方公共団体の一部である特別地方公共団体である。・概要(2編3節)
・詳細(10編)
財産区(旧財産区)「財産区名」大字〇〇地方公共団体の一部である特別地方公共団体である。・概要(2編3節)
・詳細(8編)
入会団体①代表個人の住所・氏名(単独所有)
②構成員全員の住所・氏名(多数共有)
①住所
     氏名
②住所
持分   氏名
広い意味での「権利能力なき社団」に属するため、登記形式は権利能力なき社団と同じ。・概要(2編2節)
・詳細(11編)

※1 上記図1に照らし合わせて考えてみると

照会には「字有財産」と記載されており、図1の所有者でいう「町内会・自治会等の地縁団体」が所有している財産と思われます。したがって、登記簿記載事項は、個人の住所・氏名となります。
しかしながら、登記簿上の名義人が私人名義となっていることに宜野湾市は困っているのであり、なんとか私人名義を変更したい。
そこで発出された那覇地方法務局長の回答を契機に、地方公共団体の一部である特別地方公共団体ではないにもかかわらず、便宜上、財産区名義の登記がなされたものと思われます。


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