事例
Aが所有する甲土地に
B銀行を抵当権者とする抵当権が設定されている
①2024年6月3日
A、B銀行、くまのみ市の三者で次のことが確認された。
・Aは甲土地をくまのみ市へ6/4に売却すること
・B銀行は、抵当権放棄及び登記承諾をすること
・抵当権抹消の登記手続きは、くまのみ市が嘱託すること
②2024年6月4日
Aとくまのみ市は、甲土地の売買契約を締結した
③後日
B銀行から6/3付けの抵当権放棄証書兼登記承諾書がくまのみ市へ交付された
三者確認事項に従って登記嘱託がなされ完了した
1件目 くまのみ市を登記権利者、Aを登記義務者とする所有権移転登記
(登記原因日付 2024年6月4日)
2件目 くまのみ市を登記権利者、B銀行を登記義務者とする抵当権抹消登記
(登記原因日付 2024年6月3日)
(イ)時系列に並べると

しかし、くまのみ市が抵当権抹消登記を嘱託するという前提があるので
②所有権移転 → ①抵当権抹消 の順序で登記をしなければなりません。
その理由を考えるために、下記(ハ)では、1件目の抵当権抹消をする場合の登記権利者にフォーカスしたいと思います。
(ハ)登記官の視点
<前提条件:抵当権抹消登記は、くまのみ市が行う>
時系列に沿って1件目の抵当権抹消登記を嘱託することが可能なのかを考えてみます。
Aからくまのみ市へ所有権移転登記が行われていない段階で
仮に、登記権利者 くまのみ市
登記義務者 B銀行
という抵当権抹消登記を嘱託したとします。
「甲土地の所有者であるくまのみ市です」と登記官に伝えると、「いやいや、抵当権抹消登記の登記権利者は甲土地の所有者(登記名義人)でなければならないのであり、くまのみ市は所有者(登記名義人)ではないですよね?」と言われてしまいます。

甲土地の所有者であるくまのみ市です

いやいや、抵当権抹消登記の登記権利者は甲土地の所有者(登記名義人)でなければならないのであり、くまのみ市は所有者(登記名義人)ではないですよね?
ここで、登記権利者の定義と民事局回答を確認してみましょう。
不動産登記法2
登記権利者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。
[要旨]抵当権の登記の抹消の登記権利者は、抹消登記申請当時の不動産の所有者に限る(大正8.7.26民事第2778号民事局長回答)
抵当権抹消登記の登記権利者と言うためには、甲土地の所有者(登記名義人)である必要があり、くまのみ市へ所有権移転登記がなされていない段階ではくまのみ市は甲土地の登記名義人ではなく登記権利者となれないので、申請権限を有しない者の申請によるとして却下されます(法25④)
つまり、登記官は「本事例においては、くまのみ市は登記権利者の定義に該当しないので、まずは、登記権利者の定義をみたすような登記をしてください」と言っているのです。
なぜ、登記権利者の定義について民事局の回答と絡めて説明しているのか?
条文上、登記権利者は、登記義務者と異なり、登記名義人であることは要求されていません。しかし、抵当権抹消登記の登記権利者は登記名義人である必要があるので(詳細は割愛します)、そのように説明しています。
登記研究514も参考にしてください。
登記研究514
同一不動産について抵当権設定登記の抹消と所有権移転登記を連件で申請する場合の抵当権抹消登記申請の登記権利者
[要旨]
抵当権抹消登記申請に続いて所有権移転登記を申請する場合の抵当権の抹消登記申請の登記権利者は、前所有権登記名義人である。
問 売主甲が抵当権設定登記のある不動産につき、次のとおり当該抵当権を抹消(二分の一)して、買主乙に所有権を移転する登記(二分の二)を連件で申請するとき抵当権抹消登記の権利者は、売主甲でよろしいでしょうか?
(二分の一)抵当権抹消登記 原因 平成二年七月三十一日弁済(又は解除)
(二分の二)所有権移転登記 原因 平成二年四月一日売買
答 御意見のとおりと考えます。
次に記事では、嘱託の順序の最後の記事、名変登記の省略考えたいと思います。
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