書籍のように詳しくはないけど、ちょうど欲しい情報がここにある

沖縄の特殊事情④〜財産区名義から認可地縁団体へ

注意!!あくまでも「個人的見解」であることをご承知のうえでお読みください。


下記の方法が唯一の解決策ではありません。
担当登記官と調整をお願いいたします。

事例設定

「◯◯財産区」名義で所有権保存登記がなされている土地がある。
 
 当該土地は、権利能力なき社団である「◯◯自治会(字〇〇)」が所有している土地であったが、沖縄の特殊事情(※1)もあり「〇〇財産区」として登記されている。

「〇〇自治会」が認可地縁団体となったことから、「〇〇財産区」から「〇〇自治会」へ所有権移転登記をしたい。登記原因は、真正な登記名義の回復とせざるをえない。

 ※1 沖縄の特殊事情については、次の記事を参照してください。
    財産区の登記について

真正な登記名義の回復とは何か? 研究710 P195〜P196

A それでは、まず、「申請な登記名義の回復」とは何かということから始めよう。

B はい。登記記録上の所有者から、真実の所有者が登記を回復する場合に、実体上の権利変動の過程と合致する登記を行わないで、現在の登記名義人から直接、真実の所有者へ「申請な登記名義の回復」を登記原因として所有権の移転の登記をする方法を採ることをいいます。

A そうだね、通常の登記の取扱いであれば、所有権の登記が実体を伴わない無効な登記である場合には、このような無効な登記を真実の登記に改めるため、①真実の所有者が前の登記名義人の場合には、無効な登記である現在の所有権の登記を抹消して、登記名義を真実の所有者に回復するか、又は②真実の所有者が前の登記名義人でない場合には、無効な登記を抹消して、真実の所有者のための所有権の移転の登記をするのが原則になるはずだよね。そうすると、どうしてこのような権利変動の過程と合致しない方法が採られるようになったのかな。

B ええ。原則は、先輩のおっしゃるとおりだと思います。しかし、無効な登記がされた後にその所有権を目的とする担保権などの第三者の登記がされているような場合には、その所有権の登記の抹消について、「登記上の利害関係を有する第三者」である担保権者などの承諾が必要となる(法68条)ため、無効な所有権の登記を抹消することが事実上困難な場合もあります。このような場合には、「真正な登記名義の回復」を原因として、現在の登記名義人から真実の所有者への所有権の移転登記ができるというのが、登記実務の取扱いです。

真正な登記名義の回復の要件事実 

真正な登記名義の回復の要件事実
①不真正な登記名義の存在(登記名義人が過去にも権利者でないことが必要)
②申請人が真正な権利者であることを明らかにする事実(登記上の利害関係を有する第三者の承諾が得られない事実はこれに含まれない)

登記原因証明情報

1 嘱託情報の要項
(1) 登記の目的 所有権移転
(2) 登記の原因 真正な登記名義の回復
(3) 当事者   権利者 〇〇自治会
         義務者 〇〇財産区
(4) 不動産の表示 別紙記載のとおり

2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1) ※2

※2 以下の点を参考にして、真正な登記名義の回復の要件事実について、各自作文をしてください。

要件②について
・本件不動産は、過去も現在も「〇〇自治会(字〇〇)」の所有である。
・「〇〇自治会(字〇〇)」は、認可地縁団体として法人格を取得したので登記名義人となれる。

要件①について
・字有財産であるにもかかわらず財産区名義に登記がされたのは、沖縄の特殊事情によるものと思われる。
・沖縄の特殊事情とは、昭和56年9月17日登第346号で那覇地方法務局長から宜野湾市長へ発出された「字有財産の登記について(回答)」(以下、「56年回答」という。)に起因して不真正な登記が作出されたことを指す。
・昭和56年当時、私人名義に登記されているが実体は字有財産である土地について、沖縄県内の市町村がその取扱いに困っており、沖縄に地方自治法上の財産区は存在しないにもかかわらず、便宜上、財産区を登記名義として使用した。
・便宜上とはいえ財産区名義に登記がなされたことに誤りはないことから(※3)、所有権抹消登記等ではなく所有権移転登記によらざるをえないが、財産区から認可地縁団体への所有権移転登記の原因となる具体的事実はない。したがって、真正な登記名義の回復を登記原因とする所有権移転登記をせざるをえない。

※3 権利能力なき社団所有の土地について、代表者名義で登記することと同様とイメージすればよいと思います。権利能力なき社団所有の土地について、代表者名義で登記をしても錯誤はありません。
すなわち、権利能力なき社団名義で登記ができないことから、代表者は実体上の権利を有していませんが、登記名義の委託を受けたとして登記技術上登記名義人となることができます。
それと同様に、字名義で登記ができなかったことから、登記技術上財産区名義を使用したと考え、財産区名義の登記に錯誤はないと考えます。

私が作文するなら、、、

(1) 別紙記載の不動産は、〇〇財産区名義で登記されているが、真実の所有者は、〇〇自治会(字〇〇)である。□□市において財産区が設立された事実はなく、当該財産区名義の登記がなされた当時においても、当該不動産は〇〇自治会が維持・管理しておりくまのみ自治会の財産であった。
 財産区が設立された事実がないにもかかわらず、字有財産が財産区名義に登記されたことについては、宜野湾市長発出の照会(宜総管第97号)及び那覇地方法務局長発出の回答(昭和56年9月17日登第346号)において字有地を財産区名義に登記をすることができる旨が示されたため、本件不動産についても便宜上、〇〇財産区名義とする登記が嘱託されたものと考えられる。

(2) ◯◯年◯月◯日、〇〇自治会は、地縁団体として法人格を取得したが、その際、〇〇自治会の財産として本件不動産を財産目録に記載し、□□市長の認可を受けている。
 法人格を取得したことに伴い、本件不動産を〇〇自治会名義にしたいと考えている。

(3) 誤ってなされた財産区名義について是正登記をすべきであるが、便宜上とはいえ財産区名義に登記がなされたことに誤り(錯誤)はないことから、所有権抹消登記等ではなく所有権移転登記によらざるをえない。しかしながら、財産区から認可地縁団体への所有権移転登記の原因となる具体的事実はない。したがって、真正な登記名義の回復を登記原因とする所有権移転登記をせざるをえない。

(4) 以上のことから、当事者は、真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記を嘱託することとした。

誰が登記するのか?

市町村長から登記の嘱託をする

登記研究400 P258 (赤字は本ブログ管理人による)

③その実体が、財産区でも、部落会等有でもないものー当該真正な所有者の所有
[43]では、旧大字名義で保存登記されている土地につき、その実体が部落民の共有であれば、当該大字の所属する市町村長の嘱託により、保存登記を抹消してよいとされている。その理由を考察すれば、旧大字等の名義で登記がなされていれば、当該大字等は権利能力を有するものを表示するものと見ざるを得ず、それは「財産を有する市町村の一部」を表示するものと解すべきこととなる(昭和18年法律第80号の施行の日(同年6月1日)以後の登記名義であれば、部落会等を表示するものとも解されるが。)。したがって、この「財産を有する市町村の一部」を代表する者である市町村長から登記の嘱託があれば、これを受理すべきものとされたのであろう。
右理解であれば、同様にして、仮に、これを「真正な登記名義の回復」等を原因として所有権移転登記をする場合にも、当該市町村長から登記の嘱託をすべきこととなるであろう。
なお、字名義地について、当該字に対して所有権移転登記を命ずる判決による登記の申請があればこれを受理してよいという先例[49]が存するが、これは、民事訴訟においては、民事訴訟法第46条により権利能力を有しないものであっても当事者能力が認められるものであり、裁判所において、当該登記名義人があくまでも権利能力のない字であると認定し、かつ、当該字に対し、判決により、移転登記を命じている以上当該登記申請は、受理すべきとされたのであろう。

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